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■ Gibson J-200 Martin社発表のD-45に対抗し、1938年にキブソンが作った大きなギター(17インチ幅)がSJ-200。戦後の後続モデルはJ-200と言われます。D-45の清楚な姿とは逆のコンセプトの元に作られたこのギターは、フルアコタイプのギターのサイズを持っており、カントリーのミュージシャンを中心に愛され、腹の底にガツンと響くような重い音質が飛びぬけています。 ただし、この大きさのために木の元々の性質や製作の過程の違いなどからくる個体差が激しいモデルです。また、各弦が必ずしもバランスよく同程度の音量で鳴ってくれるとは限りません(鳴らない弦は非常に強く弾く必要がある場合があります)。特にフィンガーピッキング奏者の場合は、演奏者がそのギターの音色を把握して、弾きながら加減するような技術と腕力(指の力)を要することがあります。そこがまた、たまらない魅力になることもある特にクセのあるギターです。 戦前はボディがローズウッド(特に初期のものではハカランダ)、戦後はメイプルというような具合で、様々に仕様が変遷し、音質にも違いがあります。 E・プレスリーのJ-200やエミルー・ハリスが使っているグラム・パーソンズの遺品のギターの逸話は有名です。ブルースマン、レヴァランド・ゲイリー・デイヴィスが「さあ、鳴っておくれ」などとギターに話し掛けながら、フィンガーピッキングでパンチの効いたブルースをかっこ良くJ-200で聴かせてくれることも知られています。初期カラーはサンバーストですが、私はこのギターに関してはブロンドといわれるナチュラルカラーの方が好きです。 |
SJ-200 |
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■ Gibson J-160E 今ではレアになっているCF-100Eに続く、実験的なモデルでJ-45や50と同じボディサイズのエレアコ。マグネティックタイプのピックアップを搭載しているため、その分、15フレットジョイントになっています。1954年発表。ちなみにこの機種の他にも、J-200など色々なギターに同様のエレアコ仕様のモデルが製造されました。 J-160Eは、ジョン・レノンの愛器として大変に有名でビートルズファンを中心に今でも根強い人気があります。エレアコですが、ジョンは生ギターとしての音が好きだったようで、しばしば生音をマイクで拾っています。盗難にあっても、もう一度購入し(サウンドホールのリングの数などで、最初に持っていたものとは違うものであることが分かります)、音楽的趣向の変遷に合わせて塗り替え、この器種を使いつづけました。 トップが合板で、そこにボリュームやトーンのダイアルなど、いろいろと付属しているうえにブレイシングも音質には無頓着なつくりで生音はあまりよく鳴りませんが「ノルウェイの森」を始め、多くの作品で、このギターは独特のパーカッシヴな音を奏でています。 |
J-160E |
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■ Gibson L-1 / L-00 Gibsonがアーチトップから、フラットトップに移行する過程で、当初、手がけたのがスモール・ボディのタイプのギター、L-0、L-1、続いてL-2、L-00、L-Century、NickLucus。これらは乾いた音でブルージー。トップが2ミリという構造上、激しいストロークには向かず、ロバート・ジョンソン(L-1)など、フィンガーピッキングのブルースマンに愛用されました。L-1は1926年発表、L-00は1932年。L-1のプロトタイプはナチュラルカラーのようです。 |
L-OO |
L-1 |
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■ Gibson Hummingbird 1960年発表。もともとはカントリー歌手向けに派手にデザインされたもので、ホバリングする蜂鳥のピックガードが特徴的です。 独特のこもり方をするJumboシリーズ(ボディのボトムの方が異常に大きいため、空気の滞留が起こる)と違い、このモデルは、スクエアショルダー(いわゆるMartinタイプのドレッドノート)なので、音が前に出ます。ボディ幅は16.1/4インチ。音量もしっかりしています。 個人的なことですが、私が大学生の頃に最初に買った高級ギターはHummingbirdです。J-50に買い替えた時には、むしろ、この器種の鳴りの大らかさを改めて懐かしく思ったものです。 ある一時期のものを除いてはスキャロップしていることもあり、結果的にか、あるいは意図してか、MartinのD-18に近い音色をしています。ただし、スケールがD-18よりやや短く、大きなピックガードが程よくサスティーンを抑えてくれるので、D-18よりもやや荒削りで、大らかで暖かいサウンド。そういう点では、派手なルックスの割りにクセのない弾きやすいギターで、しかもGibsonの良さが程よく表れています。 マホガニーという材質の柔軟性も生かされており、バランスが良いので、ストロークにも繊細なアルペジオにも臨機応変に対応してくれ、歌の伴奏にも優れているギターです。 Gibsonは好きだけれどもJシリーズの独特のジャリジャリしたサウンドには馴染めないし、かといってMartinのデザインは好きになれないしという人や、D-18では音が伸びすぎて歌の邪魔になるとか堅すぎて嫌だという人や、Gibsonでカントリーはもちろん、ロックやフォーク、バラードをやりたいという人にお勧めできるギターです。 |
Hummingbird |
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■ Gibson Dove 1962年発表の上級器種。爆発的ヒットとなった「蜂鳥」との競合には破れましたが不人気ということではなく、当初はモーディー・ムーアという女性ルシアーによるハンドメイドだったという白い鳩の描かれたピックガードのデザインから、自然回帰志向のミュージシャンなどに好まれたそうです。 トップの初期カラーはチェリーサンバーストでした。ただし、先にチェリーサンバーストは「蜂鳥」の印象が強く定着してしまったためか、間もなくナチュラルカラーに変更になりました(私は、チェリーサンバーストの方がバランスがいいと思うんですけどね)。名残なのか、バックとサイドはチェリーに仕上げるのがこの器種の特徴です。 「蜂鳥」がマホガニー仕様でやや暖かい音色であるのに対し「鳩」はメイプルなので、よりトレブリーで硬質な個性的な音色。 |
Dove |
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■ Gibson Advanced Jumbo 1936年発表のサイドとバックにローズウッド(あるいはハカランダ)を使ったJumboの上級後続モデルです。Gibsonが持っていた良き伝統、手工のネックのセットや塗装、材を備えています。 このサイズのギターながら、音響を優先させたのかLシリーズを単に踏襲したのか、トップの一番薄いところで2ミリの厚さしかありません(今のキブソンJシリーズの標準は2.8ミリ)。ブレイシングが繊細にスキャロップされているにも関わらずレキュタングラ・ブリッジが小さめで、スケールも他のJシリーズが24.75inchであるのに対し、ロングスケールの25.5inchを採用しています。そのために、弾いているうちにお腹が膨らんでくるほどです。結果的にトップの薄さに膨らみも加味されて、音が歪むギリギリのところでultimate(究極)と言われる、メロウなサウンドを作ります。 フィンガーボードやヘッドにアロー&キュクロプスと言われる独特の幾何学的なインレイがさりげなく入っています。また、Gibsonの端緒であるマンドリンに施していたのと同じトップのサンバーストも当時は黒すぎて地味だと言われたようですが、今では滋味のある風情です。闇の中に小さな明かりが灯ったようなこの塗装は、ピンスポットとも言われます。 MartinのD-28に対抗して作られ、値段もMartinの価格に近づく80ドルでした(1935年発表のD-28は当初100ドル、1950年代には200ドルです)。ただし、ルックスが兄弟器種の廉価版で35ドルのJ-35とよく似ていたため、たったの271本しか出回らなかった上(製造は300本前後と言われています)、トップが壊れやすいため残存するビンテージも少ないのです。 現在、綺麗な状態で残っているものは、GibsonのJシリーズの幻の最高傑作とも言われています。 通常、Martinのドレッドノートギターは、Gibsonのフラットトップギターよりテンションが高く(Martin D-28のスケールは25.4inch)、サウンドホールの位置の関係もあり、極めて粒立ちが良く、箱鳴りが大きいのが特長です。これはドレッドノートいうギターがもともとはブルーグラスという単音弾きのインストロメンタルを演奏するために作られたギターだったからです。今でもギタリストと言われる人の多くが(Gibson派もいないわけではありませんが)、Martinギターを使っているか、もしくはMartinタイプの伝統を受け継ぐギターを使っています。 Advanced Jumboは、音響の点で勝るMartinギターの背中を見ながら、Gibsonが試行錯誤を続け、歌の伴奏と個性という独自性に目覚める直前の過渡期で生み出した銘器(迷器?)です。 このモデルの失敗(?)の後、Gibsonは、クラシックギターの時代から受け継がれる「フラットトップギターの高級品のサイドバックはローズウッド(ハカランダ)」という概念を一旦捨てます。SJ-200をメイプルサイドバックに変えたのをかわきりに、一般モデルではマホガニーを使い、既にマンドリンやバイオリンからアーチトップギターに続く系譜でGibson社が扱いに慣れていたメイプル材を上級モデルに使用し、以後、しばらくの間ローズウッド(ハカランダ)サイドバックを基本とするモデルから遠ざかることになります。 |
Advanced Jumbo |
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■ Gibson J-185 人気器種となったビッグボディJ-200の弟分として、通常サイズ版というコンセプトで作られたのが、1951年発表のJ-185。J-200から引き継がれたウェストシェイプした独特のボディにマルタクロスといわれるブリッジのインレイも可愛らしいギターです。小さくても材質や構造にJ-200の要素を丁寧に盛り込んだため結果的にはJ-200の良さを残したまま、大きすぎることによって起こっていた荒々しさや癖の強さが緩和され、残響は上回るというバランスの良い逸品に仕上がりました。メイプル特有の堅いやや個性的な金属的な音色です。しかし、価格がJ-200と大差が無かったため割高という印象に見られ、期待した売上を伸ばすことが出来ませんでした。生産数は1000本足らずと言われています。 ちなみに、ソリッドブラックのボディと、とてつもなく大きなピックガードで、のちに好評を博した1963年発表のエヴァリー・ブラザースは、J-185を下敷きにしています。 |
J-185 |
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■ Gibson Southern Jumbo / Country Western Southern JumboはJ-45と同じ1942年発表。元々はSouthernerJumboという名前です。J-35の上級器種で、指板にダブルのパラレログラムインレイを施すなどをしたJ-45の装飾タイプ。古くはハンク・ウィリアムスやウディ・ガスリーが愛用し、日本では山崎まさよしのビンテージで知られています(山崎まさよしは他にもGibsonのビンテージを多数所有)。基本的にサイドバックはJ-45と同じマホガニーですが、例に漏れず材違いや飾りなど、変わった仕様のものが見られます。 Country Westernは1956年発表でSoutherner Jumboのナチュラルフィニッシュ版。いわば、J-45とJ-50の関係です。後にSouthern Jumbo Natural(SJN)という風に言われたりもしました。 両器種とも、63年にはJ-45や50より一足早くスクエア・ショルダーとなり、さらに3ポイントを持つ大きく派手なピックガードに変わることで全く趣きを変え、むしろハミングバードやダヴと似たルックスに生まれ変わり、人気器種となりました。スクエアショルダーのCountry Westernは、シェリル・クロウの愛用モデルとして知られています。 そして、スクエアショルダーシリーズとしては、ヘリテージやゴスペルなど70年頃以降のモデルの流れに繋がっていきます。 他にも、Jシリーズの上位機種や亜種(?)は、いくつかあります。いずれも生産数は多いわけではありません。 中ではヘッドが階段状になっており、独特のピックガードを持ち、時代によってはSJ-200のような口髭ブリッジを持っていたJ-55(1939-42)は、比較的知られたモデルです。 |
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■ Gibson Mrs.Donald-O custom / style-O Mrs.Donald-O customは、1900年頃、オーヴィル・ギブソンがMrs.Donald-Oのために作ったカスタムギター。特徴的なゴージャスな蝶のインレイはGibson代理店だった山野楽器がアニバーサリーの折に復刻したりしていました。 style-Oは、ハープとギターが合体した形のstyle-U発表後、1902年に初めてギターらしい形の市販品としてGibsonが発売したアーチトップギター。当初はカッタウェイタイプではありませんでした。この形になったのは1908年で、高級フラットマンドリンのような蝸牛の装飾を持ったこのボディのモデルを特に「style-Oアーチスト」と呼ぶこともあります。後に発展してスーパー400、ESシリーズ、L-5やL-7などのアーチトップのアコースティックシリーズにも受け継がれました。 この二つのギターは、オーヴィル・ギブソンが持っていたGibsonのギターの源流を示すものであります。そのデザインからして、いかにフラットマンドリン的な要素が強いかがわかります。これはMartin社がクラシックギターを始祖に持ち、ヘリンボーンというクラシックギターの装飾を残していることと対局にあります。Gibsonが今も歯切れを大切にし、倍音の少ないサウンドを持っていることもマンドリンからの流れと言えるかもしれません。 [右イラストは、実物を見たことがあまり無かったため、ジョージ・グルーン著の"Acoustic Guitars"を見ながら、参照して描きました。] |
Mrs.Donald-O custom |
style-O |
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その他のメーカー ■ Martin D-45 Martinは、ウィーンでクラシックギターの楽器製作を学んだドイツ人のクリスチャン・フレデリック・マーティンがアメリカで1833年に創設したアコースティックギターのトップメーカー。その後のいわゆるフォークギターの基本的な構造や基礎を作ったブランドです。特に、MartinT世が独自に編み出した内部のブレイシングの構造は、現在にわたるまで、ほとんどのメーカーがこれを模倣して作っていると言っても過言ではありません。 D-45は、Martinの代表的なシリーズであるドレッドノートシリーズの最上級器種で厳選された材、丁寧なインレイワーク(この器種は鮑貝の象嵌)、洗練されたシンプルなデザインに風格を感じさせます。1933年の発表。音量は大きく、安定してバランスの良い音質は朗々として明るく豊潤、特に1弦の鈴を思わせる清澄な響きは、他の追随を許さないと云われます。CSN&YのD-45など、プロのミュージシャンの使用も非常に多いです。 ちなみにドレッドノートとは、当時のイギリスの戦艦の名前を踏襲したものです。このシリーズがブルーグラスに使われるように作られたことと相まって、かつては封建的で父権的ニュアンスも微妙にあったらしく、E・プレスリーがこのメーカーのギターを使った時は、かえって不良っぽさや黒人的なニュアンスがないと若者から反感をかったことがあったそうです。 Martinはドレッドノートの他にも、エリック・クラプトンの使用で有名なトリプル・オーなど、より小さいサイズのギターも逸品。保守的なまでの製品の品質保持に徹底したポリシーを持つメーカーで、発足よりのデザインの変更の少なさには驚かされます。 |
D-45 |
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■ GUILD D-55 ギルドはMartinのいいところとGibsonのいいところを併せ持つと言われるアメリカのギターメーカー。Gibsonに買収される過渡期にあったエピフォンから1952年、職人達が独立して創設しました。D-55は、1968年発表のギルドのドレッドノートタイプの最高器種。硬い音質は、かなりの音量を誇り、激しいストロークにも耐えるしっかりとした作り。実際には、山下達郎(D-50)や山崎ハコ(D-44)など、これの下の機種をロードギターとして使うミュージシャンが多くいます。また、通常、弦のストレスで破損しやすい12弦ギターにおいてもギルドの製品は丈夫で、音もシャープだとして広く支持されています。 |
D-55 |